攻城団では毎年全国のお城(具体的には自治体や管理運営団体、観光協会等)にヒアリングをして、それぞれの入城者(入場者、入館者、入園者等)数を調査・集計しています。
お城によって「年」だったり「年度」だったりと集計期間が異なるので、年度集計の締めが過ぎた4月以降に調査をはじめ、ある程度の情報が揃ったタイミングで公開しています。
以下、今回のレポートをご覧いただく前の注意事項です。
- このランキングは「2021年(1月〜12月)」もしくは「令和3年度(2021年4月〜2022年3月)」の数字を集計したものです
- 工事などによる休館中のため「0人」の回答も含め、161城の数字が集まりました
- 数値については自治体等の発表資料や新聞報道を参照したほか、直接メールやFAX等でヒアリングをおこなっていますが、回答が得られなかったお城は対象外としています
- 集計中や発表時期が夏以降と回答があり、発表日に間に合わなかったお城も対象外としています(翌年の発表時に反映させます)
- 入城者数のカウント方法についてはそれぞれのお城ごとに異なっており、有料入城者数(=チケット販売数)のみのお城もあれば有料と無料を合算して発表されているお城もありますし、無料で見学できるため推計で発表されているところもあります
全体的な傾向として、予想通り新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による影響はまだ続いていますが、それでも前回と比べると過半数(55%)のお城で前年比がプラスになっています。
ただし感染拡大防止のための休業(休館)や入場制限があったため、コロナ前と比べるとまだ5割前後となっています。とくに外国人観光客が入城者の多くを占めていた大阪城や二条城、姫路城などは依然として厳しい状況にあります。
今回発表する数値は昨年に同様、コロナ禍での異常値だと認識していますが、今後のためにも継続的に記録することが重要だと考え発表することにしました。
コロナ禍での観光が模索され、とくに今年のGWからは各地の入城者数も増加傾向にあるようですし、どのように回復していったのかを知る手がかりになれば幸いです。
これらの点も留意しつつ、データを参照していただければ幸いです。
では2022年版、全国の入城者数ランキングを発表します!
2022年 全国入城者数ランキング(有料のみ)
今年は名古屋城(愛知県名古屋市)が1位になりました。天守には入れないもののお城ファンの間でも非常に評価の高い本丸御殿に加え、昨年は「西の丸御蔵城宝館」が11月にオープンするなどの魅力向上施策が入城者数増につながったようです。前年比も31.3%アップとなっています。
昨年1位の二条城(京都府京都市)は入城者数が微減(-10.3%)したこともあり、名古屋城と入れ替わっての2位となりました。また3位の熊本城(熊本県熊本市)は昨年から集計対象を再び有料エリアに戻したため(※1)前年比では大きなマイナス(-49.8%)ですが、4位の姫路城(兵庫県姫路市)を3千人余り上回ってのランクインとなりました。
※1 2016年の熊本地震以降、無料エリアの数字が発表されてきたが昨年から有料エリアの数字に戻った
順位 | 城名 | 2021年/令和3年度 | 前年比 |
---|---|---|---|
1 | 名古屋城 | 687,305 | 31.3% |
2 | 二条城 | 536,193 | -10.3% |
3 | 熊本城 | 447,851 | -49.8% |
4 | 姫路城 | 444,131 | 13.8% |
5 | 小田原城 | 374,504 | 75.6% |
6 | 彦根城 | 359,682 | 2.5% |
7 | 松本城 | 343,872 | 29.0% |
8 | 大阪城 | 343,000 | 42.2% |
9 | 犬山城 | 288,940 | 9.3% |
10 | 会津若松城 | 283,046 | 5.8% |
トップ3のうち前年比でプラスになっているのは名古屋城だけですが、トップ10まで広げると4位以下はすべてプラスになっており、前回の発表がすべて前年比でマイナス、しかも-50%以上だったことを踏まえると全国的に復調傾向にあることはわかります(一昨年がひどすぎたとも言えますが)。
なおトップ10の合計入城者数は前回(一昨年)が3,274,085人、今回(昨年)が4,108,524人と25%以上増加しています。
コロナ前には常に上位にあった大阪城(大阪府大阪市)はまだ苦戦が続いており今回も8位(前回7位)という結果でしたが、前年比では42.2%とトップ10のお城でも二番目に高い数字で(一番は小田原城の75.6%)日本人観光客が戻ってきていることが伺えます。
一方で同じく上位の常連だった首里城は前年比-2.2%と微減で、正殿の復元工事が終わるまではこのままの状況が続きそうです。
2022年 総合ランキング
こちらは無料で見学できるお城(城址公園など)も加えたランキングとなります。
前回は数字が把握できなかったため不明でしたが、例年上位の金沢城公園(石川県金沢市)や米沢城(山形県米沢市=上杉記念館、上杉博物館、上杉城史苑、上杉神社の合算値)が今回は数字が取得できたので再びランクインしています。
それ以外では3位に高岡城(富山県高岡市)、8位に五稜郭(北海道函館市)が入っていますが、江戸城(東京都千代田区=皇居東御苑の入園者数)は公開日数が144日(その前年は211日)と臨時休園が長引いたため前年比-49.0%と大きく減少してランク外(21位)となりました。
ちなみに宮内庁が発表している「皇居東御苑 入園者数」の資料には外国人比率も掲載されているのですが、令和3年は3.8%(令和2年は21%)とインバウンドの受け入れがストップした影響がはっきりと現れています。
この傾向はおそらく全国のお城にもほぼ共通していると考えられることから、受け入れが再開された今年の数字がどう変化するのかに注目です。
順位 | 城名 | 2021年/令和3年度 | 前年比 |
---|---|---|---|
1 | 金沢城 | 1,130,802 | -9.8% |
2 | 名古屋城 | 687,305 | 31.3% |
3 | 高岡城 | 654,500 | -11.0% |
4 | 米沢城 | 577,531 | 3.3% |
5 | 二条城 | 536,193 | -10.3% |
6 | 熊本城 | 447,851 | -49.8% |
7 | 姫路城 | 444,131 | 13.8% |
8 | 五稜郭 | 378,376 | 115.2% |
9 | 小田原城 | 374,504 | 75.6% |
10 | 彦根城 | 359,682 | 2.5% |
総評、注目のお城など
前年比でプラスになったお城、マイナスになったお城で特徴や傾向がないかと分析してみましたが、これといった理由は見い出せませんでした。
コロナ禍でも楽しめるアウトドア系の趣味として城めぐりが注目されていますが、山城にも増加しているお城もあれば、前年比で減少しているお城もあります。
天守などの建物があるお城は臨時休館や入場制限があったため、ほとんどは横ばいで増減していても10%前後のお城が多かったです。
なお今回は工事のため0人だった福山城の天守が8月28日にオープンします。同じく昨年は5月に緊急事態宣言で臨時休館になったまま工事に入った岡山城も11月3日に再開されます。
いずれも年度集計のため半年程度の数字にはなりますが、どのくらいの人が訪問するのかとても楽しみです。
まだまだコロナ禍の影響が大きすぎるのと、各地においても積極的に観光客を増やすための施策を展開できていないため、もう少し状況が改善するのを待つしかなさそうです。
ただこうして良いときも悪いときも事実は事実として記録を残していくことは大事ですし、攻城団としてはその状況下でできる支援策を今後も検討・拡充していきます。
なぜ攻城団が調査するのか
これまでお城の入城者数ランキングとして発表されてきたのは全国城郭管理者協議会が発表するものが中心で、加盟城郭に限定されたものでした。
ではなぜ攻城団がわざわざ調査をして発表するのか。
これは「スタンプのない『日本100名城』以外のお城の訪問記録も残したいから攻城団をつくった」のと同じ理由です。
ぼくらは「わかりやすさのためにあえて絞ること」を否定しません。攻城団でも「制覇モード」という機能を用意して、初期状態では知名度の高いお城だけが検索結果に表示されるようにしています。初心者にとって多すぎる選択肢は不親切でしかないとぼくは考えています。
ただし非表示にしたお城も確実に存在していたのです。そのお城にも歴史があり、現地では見学しやすいように整備をしたり案内板や城址碑を建ててくださっている方々がいらっしゃいます。
そこで攻城団は特定の基準にとらわれず、可能なかぎり対象を広くとって調査をおこない、お城を大事にされている方々の成果も記録していこうと決めました。
そして数字を把握し共有するだけでなく、長くマーケティングに携わってきた知見を活かしながら「なぜ伸びたのか(落ち込んだのか)」の考察も加えて、より多くのお城関係者のみなさんにとって役立つ存在になりたいと考えています。
攻城団では現地で開催されるイベント情報や日々の天気のデータも記録していますし、団員が残してくれた膨大な写真やコメントもあります。こうした定量・定性情報を組み合わせつつ、お城を観光振興に活かす成功モデルを構築していきたいのです。
ぼくらが目指しているのは「じっさいにお城に訪問する方を増やす(そして満足いただき再訪問率も高める)」ことなので、全国各地の観光再生にたずさわっていければと思っています。
ありがたいことに日々の活動の中で多くの自治体や観光協会の方々との接点が生まれています。そのご縁を頼りに来年以降も、攻城団では可能なかぎり多くの城・城址(管理事務所や自治体の広報課、観光協会等)に問い合わせて、各地を訪問した観光客の数値を把握して発表していきます。関係各所のみなさまにはお忙しい中恐縮ではございますが、ご協力をお願いいたします。
ぼくらは攻城団を、利用者にとって楽しく便利なだけでなく、現地の方々にも喜ばれるようなサービスに育てていきたいので、引きつづきご支援くださいますようお願いいたします!
今回集計したデータ
全国のお城にご協力いただき集計したデータを以下に公開します。
最新のレポートをご参照ください
調査概要
調査期間 | 2022年5月12日〜6月30日 |
---|---|
調査方法 | 弊社より対象自治体・観光協会にアンケート票をFAXまたはメール送信して返送を依頼。 |
調査件数 | 216件 |
回答件数 | 161件(回収率74.5%) |
送付できなかった、回答が得られなかったお城のうち、一部は新聞報道や自治体のサイトで発表された資料を参照して入力しました。
入城者数把握のむずかしさ
「入城者」といってもじつは統一された基準がないということをあらためて説明しておきます。
天守等の有料エリアの場合、チケットの販売数で確実な数字が出せるものの、招待チケットや無料招待日などがあると誤差が生じます。そして城址公園など無料エリアについては、たとえば近隣住民が犬の散歩で毎日訪問していた場合にもカウントするのかなど、こうした観光客以外の入城者(この場合、来園者)を含めるかどうかの基準が決まっていません。山城などは赤外線センサーでカウントしているところもありますが、どのくらい正確に計測できているかは疑問です。
ただどのような方法であれ、そのお城において常に同じ基準で集計されているなら傾向を捉えることはできますし、施策の効果を分析する上でも十分だと考えています。