多くの自治体・観光協会のご協力のもと、データ自体はおおむねGW頃には揃っていたのですが、緊急事態宣言や外出自粛の中、公開することを控えておりました。いまもけっして油断できる状況ではありませんが、データは生物ですのでこのタイミングで公開することにしました。
例年より遅い時期での公開となりましたことをお詫びいたします。
攻城団では毎年全国のお城(具体的には自治体や管理運営団体、観光協会等)にヒアリングをして、それぞれの入城者(入場者、入館者、入園者等)数を調査・集計しています。
お城によって「年」だったり「年度」だったりと集計期間が異なるので、年度の締めが過ぎた4月から調査をはじめましたが、今年は去年を上回る148のお城の数字が集まりました(過去の推移は83城→106城→127城)。
以下、今回のレポートをご覧いただく前の注意事項です。
- このランキングは「2019年(1月〜12月)」もしくは「平成31年度(2019年4月〜2020年3月)」の数字を集計したものです
- 数値については自治体等の発表資料や新聞報道を参照したほか、直接メールやFAX等でヒアリングをおこなっていますが、回答が得られなかったお城は対象外としています
- 集計中や発表時期が夏以降と回答があり、発表日に間に合わなかったお城も対象外としています(翌年の発表時に反映させます)
- 入城者数のカウント方法についてはそれぞれのお城ごとに異なっており、有料入城者数(=チケット販売数)のみのお城もあれば有料と無料を合算して発表されているお城もありますし、無料で見学できるため推計で発表されているところもあります
また今回にかぎってのポイントとしては、年度集計のところで新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響が出ていることが挙げられます。二条城、名古屋城、姫路城など上位のお城のほとんどが年度集計であるため、3月(中国からのインバウンドの影響は2月頃から)の落ち込みが反映されています。
本来であれば一昨年に西日本豪雨で減った観光客の数が持ち直していること、大型連休(ゴールデンウィーク)が10連休だったことから前年比で大幅増が予想されたのですが、そうした結果にはなりませんでした。
この点も留意しつつ、データを参照していただければ幸いです。
では2020年版、全国の入城者数ランキングを発表します!
2020年 全国入城者数ランキング(有料のみ)
今回も4年連続で大阪城(大阪府大阪市)が1位となりました。
大阪城はトップ5の中では唯一、年単位での集計のため新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響がなかったはずなのですが、前年比ではマイナス14.4%と大きく落ち込みました。2015年(平成27年)から5年連続で200万人をこえているのですが、2017年(平成29年)の275万人をピークに、255万人、218万人と減少が続いているのが気になります。
2位の二条城(京都府京都市)、3位の名古屋城(愛知県名古屋市)はこの3年間、毎年順位を入れ替えています。今回はあらためて二条城が2位に返り咲き、トップ3は3年連続同じ顔ぶれとなりました。
名古屋城は一昨年から工事のために天守への入場ができなくなりましたが、完成度の高い本丸御殿のほか、西北隅櫓の特別公開、すでに10年以上の実績を持つ「名古屋おもてなし武将隊」によるPRなどが功を奏して、天守というお城のシンボルが集客に使えなくても工夫次第でやれることはあることを証明しました。
順位 | 城名 | 2019年/平成31年度 | 前年比 |
---|---|---|---|
1 | 大阪城 | 2,182,000 | -14.4% |
2 | 二条城 | 2,058,152 | -4.6% |
3 | 名古屋城 | 2,036,260 | -7.8% |
4 | 姫路城 | 1,548,071 | -2.6% |
5 | 首里城 | 1,051,438 | -40.8% |
6 | 彦根城 | 733,489 | 1.5% |
7 | 松本城 | 717,645 | -3.4% |
8 | 犬山城 | 601,172 | -2.9% |
9 | 会津若松城 | 584,882 | -1.8% |
10 | 小田原城 | 580,019 | -3.9% |
2020年 総合ランキング
こちらは無料で見学できるお城(城址公園など)も加えたランキングとなります。
1位は金沢城公園(石川県金沢市)でここ数年ずっと200万人以上をキープしています。2位の江戸城(東京都千代田区=皇居東御苑の入園者数)も総合ランキングでは毎年上位に入っていますが、昨年は11月に行われた天皇陛下の皇位継承に伴う重要祭祀「大嘗祭(だいじょうさい)」の舞台となった「大嘗宮(だいじょうきゅう)」が本丸跡に造営されたこともあり、お城目的以外の入場者が例年以上に多かったようです。
そのほか米沢城(山形県米沢市=上杉記念館、上杉博物館、上杉城史苑、上杉神社の合算値)がランクインしましたが、今回は前回170万人の熊本城(熊本県熊本市=震災以降は二の丸広場の入城者数)や、例年90万人前後の入城者数を記録している五稜郭(北海道函館市=五稜郭公園)と高岡城(富山県高岡市=高岡古城公園)などの数字が揃わなかったので、若干順位が不正確かもしれません。
順位 | 城名 | 2019年/平成31年度 | 前年比 |
---|---|---|---|
1 | 金沢城 | 2,332,485 | 7.1% |
2 | 江戸城 | 2,238,233 | 35.2% |
3 | 大阪城 | 2,182,000 | -14.4% |
4 | 二条城 | 2,058,152 | -4.6% |
5 | 名古屋城 | 2,036,260 | -7.8% |
6 | 姫路城 | 1,548,071 | -2.6% |
7 | 米沢城 | 1,081,558 | -5.5% |
8 | 首里城 | 1,051,438 | -40.8% |
9 | 彦根城 | 733,489 | 1.5% |
10 | 松本城 | 717,645 | -3.4% |
総評、注目のお城など
二条城は大阪城と並んで圧倒的にインバウンド需要でここ数年入城者数が増えていましたが、新聞報道によれば「新型コロナウイルスの感染拡大で今年3月が前年度比7割減と大幅に落ち込んだ(『京都新聞』6月24日)」とのことでした。先日、元離宮二条城事務所の北村所長の話を伺う機会があったのですが、例年だと平日5千人、週末1万人ほどの来城者が現在は平日100〜200人、週末1000人と厳しい状況は新年度も続いているようです。
ただし昨年4月におこなった値上げについては大きなマイナス要因とはなっていないようですね。姫路城、二条城と入場料が約1000円(二条城は入場料620円+二の丸御殿観覧料410円)として定着したので、今後全国のお城の入城料も再検討をしていくべきだと思います。
インバウンド比率の高いお城ほど年度末のブレーキが大きかったことは明らかで、姫路城(兵庫県姫路市)は市の発表によれば「2019年4月から2020年1月までは外国人観光客の増加などの要因により前年を上回る水準で推移、しかし2月以降は新型コロナウイルス感染症の影響を受け」急ブレーキとなったようです。残り2ヶ月の段階で前年を上回っていながら最終的にマイナス2.6%という結果になっているので、2月・3月の落ち込みは相当なものだと想像できます。
なお「外国人比率は年々増加しており、2019年度は395,003人(25.5%)」とのことでした。今回の新型コロナウイルス感染症の影響は国内外問わずなので、これをもってインバウンド依存のリスクを指摘するのは正しくないと思います。ただしこれからV字回復を目指すにあたって、インバウンドにどこまで注力するかは再検討すべきかもしれません。
首里城(沖縄県那覇市)については周知のとおり、昨年10月末の火災で正殿が焼失したことの影響が大きく、マイナス40.8%と上位陣の中ではもっとも大きな落ち込みとなりました。
ぼくが取材で年末年始と首里城を二度訪問した際も人は少なかったのですが、105万人という数字は開園以来最低の数字だそうです(初年度は11月オープンなので除外)。なお沖縄美ら海水族館の入館者数も前年度比でマイナス11%とのことなので、首里城の火災によって沖縄への旅行そのものを取りやめた方が多いことが予想されます。
全体の傾向
昨年(今回)と一昨年(前回)、両方の数字が手元にある98城の数字だけで見ると、一昨年が「2594万2674人」で昨年が「2528万9133人」と前年比で97.5%となりました(いうまでもなくこの数字は重複を含んだ「のべ」人数です)。ちなみに過去の推移は106%→92.8%でした。
ただし上位のお城の入城者数の減少が目立つ一方で、個々のお城で見ていくと前年比でプラスになっているのが51城、マイナスになっているところが47城と、過半数のお城が前年を上回っていることもわかります。
なかには過去最高を記録したお城もあります。
丸亀城(香川県丸亀市)は天守入場者数が13万人を突破して過去最高となりました。前年に台風や豪雨で石垣が大規模崩落した丸亀城ですが、ユニークなスタンプラリーを開催するなど注目を集めるチャンスにつなげることができたようです。
毎年入城者数ランキングを集計していると、「現存天守」といった歴史的価値よりもアクセスの容易さや一般の方の知名度のほうが大きく影響することを感じますが、近年はお城を紹介するテレビ番組が増えており、現存天守をはじめとする遺構の価値や魅力が広く伝わりつつあることも実感します。
丸亀城以外にも弘前城、丸岡城、宇和島城、備中松山城、松江城と現存天守を持つお城の入城者数が前年比でプラスになっていることはお城めぐりがすでにブームではなく、趣味として定着してきていることの証左だと思います。
NHKの人気番組でも「フォトジェニックな城」「トレッキングに最高の城」「デジタル技術でよみがえった城」などさまざまな切り口で全国各地のお城にスポットライトを当てていますが、今後は自治体や観光協会の側からも独自の切り口を見つけてSNS等でPRしていけばさらに認知度を高めていくことができるでしょう。
前年比でプラスになっているお城
以下は前年比で大きく伸びているお城の上位10城を示した表です。
順位 | 城名 | 2019年/平成31年度 | 前年比 |
---|---|---|---|
1 | 苗木城 | 152,463 | 716.9% |
2 | 田辺城 | 14,051 | 608.8% |
3 | 岡豊城 | 15,930 | 276.1% |
4 | 小倉城 | 200,000 | 266.6% |
5 | 福知山城 | 101,238 | 220.2% |
6 | 知覧城 | 233 | 217.8% |
7 | 角牟礼城 | 800 | 200.0% |
8 | 荒砥城 | 25,000 | 176.1% |
9 | 高取城 | 18,000 | 150.0% |
10 | 座喜味城 | 205,452 | 139.0% |
1位の苗木城についてはおそらく一昨年の数字(2万1千人)がまちがっている可能性が高いのですが、その前が7万6千人なので、2年で倍増していることはすごいことで、攻城団の評価ランキングでも4位(4.19)と近年人気のお城なっています。
さらに2位の田辺城(京都府舞鶴市)、5位の福知山城(京都府福知山市)と(放送前とはいえ)大河ドラマ「麒麟がくる」の影響を感じさせるお城がランクインしています。
なお4位の小倉城(福岡県北九州市)は一昨年に展示リニューアルやエレベーター設置工事による休館(8月6日〜3月29日)があった影響で、その前年は19万人だったのでほぼ同じ水準に戻ったと見るべきですが、20万人を突破したのは54年ぶりとのことでした(ちなみに3月7日に20万人突破と『朝日新聞』の記事で確認できたのみで、年度末時点の最終的な数字は不明)。
築城400周年ということで攻城団もPRに協力した明石城(兵庫県明石市)は惜しくもランク外となりましたが、前年比136.5%という好結果につながっていました。
「麒麟がくる」関連のお城
例年、戦国時代が舞台となる大河ドラマでは放送にあわせて現地の整備を進めたり、テレビでの露出も増えるため、その影響は前年からあらわれることが多いです。
城名 | 2019年/平成31年度 | 前年比 |
---|---|---|
福知山城 | 101,238 | 120.2% |
勝竜寺城 | 76,821 | |
一乗谷城 | 131,053 | |
明智城 | 18,842 | |
田辺城 | 14,051 | 508.8% |
岐阜城(岐阜県岐阜市)の数字が入手できなかったため表には入れませんでしたが、新聞報道によれば「岐阜市によると、1月の入場者数は2万3699人で、月別の統計が残る1989年以降、過去最多を記録。過去31年の1月平均の2倍以上で、2月も25日時点で2万2335人と昨年の2倍を超えるペース(『産経新聞』3月6日)」と、大河ドラマの追い風を受けていることが確認できています。
また福知山城は「前年より2110人増の2829人。記録がある2013年以降が141人~737人であることからも、今年は異例の“大入り”となった(『両丹日日新聞』1月7日)」と正月三が日の入館者数が昨年比で約4倍、勝竜寺城公園(京都府長岡京市)も「2月の入園者数が前年比82%増を達成(『伏見経済新聞』3月14日)」と、いずれも「麒麟がくる」の放送にあわせて露出が増えたことが影響しています。
さらに一乗谷朝倉氏遺跡(福井県福井市)については有料エリア(復原町並)は13万人、21.7%増で、無料エリアも含めた来城者数は「約106万人(46.4%増)で伸び率が最大だった(『福井新聞』6月22日)」という結果でした。これは大河ドラマだけでなく、NHK「ブラタモリ」で紹介されたことと日本遺産に認定された影響があると分析されています。
未曾有の逆風にどう向き合うか
もっとも、好調だと紹介したいずれのお城も3月以降は新型コロナウイルス感染症の影響で落ち込んでいることは言うまでもありません。
緊急事態宣言や外出自粛の呼びかけもあり、また春先には自治体側で休館を決めた施設も多く、大河ドラマ館も来館者数が想定を大きく下回るなど今年の数字がどんな結果になるのか不安ですが、調査は継続していくつもりです。そして攻城団では「お城ニュース」の運営を通じて各地で開催される取り組みを記録していますので、どういう努力をして回復に成功していたのかも追いかけていきたいと考えています。
これからは独自の魅力を伝えることに加えて、安全性やどういった予防対策を講じているかといた情報発信がいままで以上に重要になると思います。
攻城団では先月から丸岡城の公式サイトの運営を支援していますが、今後ほかのお城に対してもこうしたサポートを拡充していきます。
なぜ攻城団が調査するのか
これまでお城の入城者数ランキングとして発表されてきたのは全国城郭管理者協議会が発表するものが中心で、加盟城郭に限定されたものでした。
ではなぜ攻城団がわざわざ調査をして発表するのか。
これは「スタンプのない『日本100名城』以外のお城の訪問記録も残したいから攻城団をつくった」のと同じ理由です。
ぼくらは「わかりやすさのためにあえて絞ること」を否定しません。攻城団でも「制覇モード」という機能を用意して、初期状態では知名度の高いお城だけが検索結果に表示されるようにしています。初心者にとって多すぎる選択肢は不親切でしかないとぼくは考えています。
ただし非表示にしたお城も確実に存在していたのです。そのお城にも歴史があり、現地では見学しやすいように整備をしたり案内板や城址碑を建ててくださっている方々がいらっしゃいます。
そこで攻城団は特定の基準にとらわれず、可能なかぎり対象を広くとって調査をおこない、お城を大事にされている方々の成果も記録していこうと決めました。
そして数字を把握し共有するだけでなく、長くマーケティングに携わってきた知見を活かしながら「なぜ伸びたのか(落ち込んだのか)」の考察も加えて、より多くのお城関係者のみなさんにとって役立つ存在になりたいと思っています。
攻城団では現地で開催されるイベント情報や日々の天気のデータも記録していますし、団員が残してくれた膨大な写真やコメントもあります。こうした定量・定性情報を組み合わせつつ、お城を観光振興に活かす成功モデルを構築していきたいのです。
ぼくらが目指しているのは「じっさいにお城に訪問する方を増やす(そして満足いただき再訪問率も高める)」ことなので、全国各地の観光再生にたずさわっていければと思っています。
今回は前回以上に多くの数字を集めることができましたが、それでもまだすべてを把握できているわけではありません。
来年以降も、攻城団では可能なかぎり多くの城・城址(管理事務所や自治体の広報課、観光協会等)に問い合わせて、各地を訪問した観光客の数値を把握して発表していきます。関係各所のみなさまにはお忙しい中恐縮ではございますが、ご協力をお願いいたします。
ぼくらは攻城団を、利用者にとって楽しく便利なだけでなく、現地の方々にも喜ばれるようなサービスに育てていきたいので、引きつづきご支援くださいますようお願いいたします!
今回集計したデータ
全国のお城にご協力いただき集計したデータを以下に公開します。
最新のレポートをご参照ください
調査概要
調査期間 | 2020年4月14日〜2020年5月10日 |
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調査方法 | 弊社より対象自治体・観光協会にアンケート票をFAX送信。回答票をFAXにて回収。 |
調査件数 | 425件 |
回答件数 | 148件(回収率34.6%) |
送付できなかった、回答が得られなかったお城のうち、一部は新聞報道や自治体のサイトで発表された資料を参照して入力しました。
入城者数把握のむずかしさ
「入城者」といってもじつは統一された基準がないということをあらためて説明しておきます。
天守等の有料エリアの場合、チケットの販売数で確実な数字が出せるものの、招待チケットや無料招待日などがあると誤差が生じます。そして城址公園など無料エリアについては、たとえば近隣住民が犬の散歩で毎日訪問していた場合にもカウントするのかなど、こうした観光客以外の入城者(この場合、来園者)を含めるかどうかの基準が決まっていません。山城などは赤外線センサーでカウントしているところもありますが、どのくらい正確に計測できているかは疑問です。